東京地方裁判所 昭和26年(ワ)51号 判決
原告 新光産業株式会社
被告 藤貫陽
一、主 文
被告は原告に対して金三十四万五百二十円及びこれに対する昭和二十五年十二月一日以降完済迄年六分の割合の金額を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、訴外藤産業株式会社は昭和二十五年十月三日原告に宛て、金額三十四万五百二十円、満期同年十一月三十日、支払地、振出地各東京都中央区、支払場所同区新富町二丁目十三番地藤産業株式会社とした約束手形一通を振出し、被告は右手形の保証人である。
原告はその所持人で同年十二月二日支払場所で呈示したが支払を得なかつたので、同日支払拒絶証書を作成させた。よつて保証人である被告に対して右手形金及びこれに対する満期の翌日である同年十二月一日以降完済迄手形法所定の年六分の割合の利息の支払を求めると述べた。
被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として原告主張の請求原因事実は全部認めると述べた。
三、理 由
原告主張の請求原因事実は被告の争はないところである。被告代理人は抗弁として(一)被告は昭和二十五年六月十四日右債務の弁済として五千円を支払つた。(二)元来本件手形は次の債務の支払のため振出されたものである。即ち代表社員を被告とする藤産業株式会社が同年一月末原告会社から(イ)ガラ紡三千九十四ヤールを一ヤール八十円代金二十四万七千五百二十円(ロ)同千八百六十ヤールを一ヤール五十円代金七万九千三百円で買受けたが、(イ)の物品は同年二月十三日(ロ)の物品は同月二十四日買受会社に着荷したところ、その時は契約当時より価格が低落し、(イ)については一ヤールにつき三十五円計十万八千二百九十円(ロ)については一ヤールにつき十五円計一万四千二百円合計十二万二千四百九十円の損失となつた。而して繊維業者間の取引でこのような損失を生じた場合には売主と買主とが値下りによる損失を平分して負担するという慣習が存在するので、原告は右損失の半額である六万千二百四十五円を負担することになる。従つて買受会社は原告に対して(イ)(ロ)の売買代金合計三十二万六千八百二十円から右損失負担金を控除した金二十六万五千五百七十五円の代金支払義務を負うことになり、これから更に(一)の内入金を控除した二十六万五百七十五円の支払義務あるに止まる。而して本件手形は右買受代金の支払のために振出されたものであるから、保証人である被告の責任もこの金額に限られこれを超過する原告の請求は失当であると主張した。
右に対し原告代理人は時機に後れた防禦方法であるから却下せられ度しと申立て、本日にわかに提出せられたので答弁はできないと述べた。
よつて本件訴訟の経過を見ると、昭和二十六年二月六日の最初の口頭弁論期日において、被告代理人は原告主張事実を認め示談交渉のため弁論の続行を申立てたが、原告代理人の同意を得られなかつたので、次回期日の二月十五日に示談不調となれば弁論の終結に異議を述べないとの条件で原告代理人の同意を得て期日を続行したところその二月十五日の期日に至つて、被告代理人は同日附の準備書面を提出し右抗弁事実を陳述したことは本件口頭弁論調書の記載で明確である。
凡そ当事者が訴訟手続を遂行するに当つては、互に信義誠実を以つて、先づその主張を明確にすることに努むべきは勿論訴訟の進行についての合意を尊重し、以つて適正な裁判が迅速になされることに協力するよう特に近時強い要請となつていることは既に周知のことがらである。
然るに被告代理人の右主張は原告代理人との訴訟進行についての合意を無視し、信義に反するばかりでなくその抗弁事実の内容を見ても、最初の期日ではあるが、前記二月六日の口頭弁論期日に提出できなかつた程事実の調査に困難を要するものとは思はれない。(右期日に提出できなかつた事由の主張なく、又已むを得ない事情は何も見出せない)。結局容易に提出できた筈のものを怠つたのは、重大な過失で時機に後れたことになり且つこれがため訴訟の完結を遅延させるものと認むべきであるから、民事訴訟法第百三十九条に則りここに却下せざるを得ない。
以上の次第であるから原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について、同法第八十九条仮執行の宣言について同じく第百九十六条を各適用して主文の通り判決する。
(裁判官 西川美数)